「これが東大の授業ですか」

 

河村 有紀(短大図書館)

 

 「日本一賢い学生の集まる大学の英語の授業っていったいどんなものかしら?」好奇心で手に取った本である。筆者「佐藤君」は東京大学教養学部で1993年から始まった「東大始まって以来」の実験的試みである英語Ⅰの授業改革を約10年にわたって続けてきた。

 

 「佐藤君」には、楽していい点を取りたい学生と、授業には労力をかけず研究に力を注ぎたい教師、両者の利害が一致した安易な単位授受システムを崩したい、そんな思いがあった。そして「英文を知的に解析することにかけては世界のどの国にも負けない力を持っている」学生に「がっしりとした内容のあるものを、とにかく少しでもすらすらと読めるようになること。ある程度知的な話もゆっくりならば、内容がそのまま頭に入っていくようになること」を目指したのである。

 

 授業は統一のオリジナルテキスト『The Universe of English』(東京大学出版会)を使いリーダー&ビデオ教材で何千人もの学生に同じ授業を受けさせる、というもの。この教材を作る過程や、授業の様子・渉外業務等1990年代の授業革命の様子が生き生きと綴られている。

 

 これは学生がラクをしない授業、つまり予・復習が大変な授業であり、『佐藤君と柴田君』(新潮文庫)には、2年生の教材である『The Expanding Universe of English』に対し、学生の作ったその訳本『The Shrinking Universe of English』が、その卓越したパロディ精神で話題を呼んでいることが書かれていて笑ってしまう。

 

 読みながらこの本のタイトルのフレーズの意味がくるくる変わるのが面白いのだが、我が創価大学に眼を転じてみると、たぶん皆さんもいろいろな場所で「え~、これが創大(失望)?」とか「これが創大(希望・喜び)!!!」という思いをたくさん経験されていると思う。

 

 私は創大に入学した当初、先輩からよく「創大は"Land of Opportunity"なんだよ。」と言われたものだった。活躍の場は人それぞれだが、誰にとっても図書館は"Land of Opportunity"の最たる場所ではないだろうか。図書館で働くようになって、ますますその感を強くしている。

 

 私の所属は短大図書館だ。日々、どんな資料が学生さんの役に立つのか頭を悩ませつつ仕事をしている。モットーは「規模は小さいが使える図書館」いわゆる図書館界におけるビームス(セレクトショップ)である。

 

 この本は、使える英語を身に付けるにはどうしたらいいかというところから始まり、教養英語→教養とは何なのか?という論点についても触れられている。今の時代にアメリカ創価大学がLiberal arts collegeとして出発したことの意味が、何となくではあるがわかったような気がした。

 

 「教養とは何か」などという哲学的な問いから始まる本は勘弁してよ、という根気のない私なのだが、この本(「これが東大の授業ですか」)は、ふだん使わない頭の部分をきりきりと回転させてくれた「きっかけの一冊」である。思わぬところから更に興味を広げてくれた。読書って素晴らしい!